マルセル・デュシャン(1887年〜1968年 フランス)はアートをコンセプトによってつくりだし、鑑賞するものから考える対象にした人。現代アートの創始者とも言われる。その出発点になった作品が、デュシャンが《泉》と名付けた作品。
《泉》は、セラミック製の男性用小便器を上向き に置いただけのものだ。デュシャン自身がつくったわけでもない、市販の既製品で、彼はサインを入れただけのもの。デュシャンは既製品を芸術作品に転用したものを「レディ・メイド」と命名した。そのサインも偽名でR.マットと記されている。「美こそ善」であるといった、美術界の既成概念を打ち破るものであり、そのために彼は、あえて美から一番遠くにある便器を使って既存の価値観に意義を唱えた。
一方、わび茶を完成させた茶人であり、商人でもあった千利休(1522〜1591)はデュシャンよりも400年ほど前に活躍した人である。しかし、この二人には共通点がある。利休は独自のすぐれた美意識に基づいて、本来茶の湯の道具でなかった日常の雑器などの品々を茶の湯の道具として「見立て」て、茶の湯に取り込む工夫をした。まさに当時の既製品を「レディ・メイド」として美術品に仕立て上げたわけだ。
「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における『アート』と『サイエンス』」(光文社新書)の著者で、コーン・フェリー・ヘイグループのシニア・クライアント・パートナーである山口周氏は同書において、利久を「世界最初のクリエイティブディレクター」と形容している。利休の秀でているところは「『陀び』という極めて抽象度の高い美的感覚を、一般には芸術メディアとは考えられていなかった茶室や茶碗などの具体的な道具に落とし込んでいったこと」という。
参考資料
山口周(2017)『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」 (光文社新書)
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