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モダンアートは脳を活性化する?

更新日:2020年12月11日



顔の真ん中に緑の太い筋――。「緑の筋のあるマティス夫人の肖像」は、1905年にアンリ・マティスによって描かれた油彩作品で、マティス夫人がモデルである。伝統に縛られない色彩によって、フォーヴィスムを代表する作品の1つとされる。

こうしたアートを見たとき、脳はどんな反応をするのだろうか。

ロンドン大学のセミール・ゼキ教授らによる研究では、青紫色のイチゴなど現実にはあり得ない色の写真画像を被験者に見せると、前頭葉にある背外側前頭皮質(DLPFC)の活動が大きく変化したという。DLPFCはヒトを人間たらしめ、思考や創造性を担う脳の最高中枢で「脳の中の脳」とされる。変なるの、違和感のあるものを見いだし、どうして変なのか、解決しょうとDLPFCが活発に動くのだ。

東京大学大学院の岡田猛教授によると、アート作品はそれを見る人を触発し、見る人のうちに化学反応を起こして、さらに新たなものが生まれるきっかけとなる。岡田教授の実験では、抽象画を一度模写するとそのあとに描く絵において創造性が上がることが確認できたが、じっくり見るだけもほぼ同様の創造性の向上が見られたという。作品の前を通り過ぎるのではなく、近寄ったり遠ざかったりしながら見たり、誰かと話しながら見たりと、アクティブなものである場合、実は表現と鑑賞の距離はそれほど離れていないことがわかっている。アートを見ることでいろんな効果が期待できるという。

さらに、脳の前頭前野については、「美を感じる役割」を担っていることが最近の研究で判明しているが、この部位はまた同時に、自分の意識や注意をどこに向け、どのようにコントロールするか、つまり意思決定の中枢に関わっていることがわかっている。 神経生理学者のアントニオ・ダマシオの研究では、手術によって脳の前頭前野を失った患者は、個人的·社会的な意思決定の能力を喪失すると同時に、音楽や絵画に感動するという力を失ってしまったという。ダマシオの研究によって高度な意思決定の能力は、はるかに直感的·感性的なものであり、絵画や音楽を「美しいと感じる」のと同じように、私たちは意思決定しているのかも知れないということがわかってきたのである。絵画や音楽を聴いて「美意識」を高めることは、複雑な意思決定を求められるビジネスパーソンにとっても有益であるともいえるのである。

 

参考文献

セミール・ゼキ,河内十郎訳(2002)『脳は美をいかに感じるか―ピカソやモネが見た世界』日本経済新聞出版

エリック・R. ・カンデル,高橋洋(2019)『なぜ脳はアートがわかるのか ―現代美術史から学ぶ脳科学入門』青土社

A. R. ダマシオ,田中三彦訳 (2005)『感じる脳:情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』ダイヤモンド社,同 (2010)『デカルトの誤り情動,理性,人間の脳』筑摩書房

石黒千晶, 岡田猛 (2017)『芸術学習と外界や他者による触発――美術専攻・非専攻学生の比較――』 

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