2020年7月から10月まで開催された現代アートの国際展「ヨコハマトリエンナーレ2020」。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大以降は、世界でも初の大規模な芸術祭となったことで注目された。
アーティスティック・ディレクターを務めたのは、インドのアーティスト集団「ラクス・メディア・コレクティヴ」。「独学──自らたくましく学ぶ」「発光──学んで得た光を遠くまで投げかける」「友情──光の中で友情を育む」「ケア──互いを慈しむ」「毒──世界に否応なく存在する毒と共存する」という5つの「ソース(源泉)」をもとに企画した。
5つの「ソース」を決めたのは前年の2019年のこと。新型コロナウィルスの世界的な感染拡大を言い当てるようなテーマだが、横浜美術館の蔵屋美香館長は「アーティストは、未来を予見するようなテーマを引き当てることがある」と指摘する。秋元雄史・東京藝術大学大学美術館長・教授は著書「アート思考 ビジネスと芸術で人々の幸福を高める方法」(2019年、プレジデント社)の中で、アーティストを「炭鉱のカナリア」に例える。「アーティストの直感やセンスの起源は全身全霊で世界と向き合い、生きること。私たちはそれを単なる知識ではなく追体験するように知ることで本質を捉えることができる」と説明する。
このヨコハマトリエンナーレ2020で私が注目したのが佐藤雅晴(1973-2019)の作品。佐藤はビデオカメラで撮影した日常の風景を、パソコン上でトレースしてアニメーション化するロトスコープと呼ばれる技法を駆使した「リアルなイメージの中にも、どこか奇妙な感覚をもたらす映像作品」で知られる。
佐藤は1996年に東京藝術大学美術学部油画専攻を卒業後、99年に同大学大学院修士課程を修了。2010年に病に倒れ、癌との闘病生活を続けてきた。2018年には余命宣告を受け、翌年45歳の若さで亡くなった。病状の進行に伴って視力が低下する中、亡くなる直前まで作品を制作し続けていたという。
トリエンナーレではロトスコープの手法で製作され、佐藤の遺作となった絵画群が展示された。癌という「毒」との闘いの中で、捉えたイメージはシンプルな故に、衝撃的でもある。
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